2011年9月6日火曜日

修復的正義/司法の源流記述について

表記のページを公開しました.


2011年8月7日に国際犯罪学会で行った報告"The Current State of Restorative Justice in Japan"とそのさい作成をお手伝いした「日本における修復的正義の年表」の延長です.


同ページに記載の集成は、「修復的正義」「回復的正義」の概念/実践の名の下で、主に、1950年代後半に生じた、キリスト教から発する流れと、アルバート・イグラッシュ(Albert Eglash) が1958年の諸論文で提案した「創造的賠償」("creative restitution")の流れの交錯に焦点を当てようとしています.


(1)イグラッシュ の論文を読むと、宗教的動機よりも、賠償のもつ心理学的効果への気づきが動機のように思われます.なお、キリスト教の影響は、自発性の強調ということ("going second mile"という表現)を中心に、確かにあり、「修復的(回復的)正義」という語ないし概念が用いられています.この一起源は第2次世界大戦中/後の「反法実証主義」ないし「自然法の復興」と交錯しながら生じていた、ドイツ(とスイス)のキリスト教法学(Jacque Ellul , Walther Shoenfeld ら)と呼ばれるものにあるようです.


(2)修復的正義実践のテクニックとしては、Alcoholic Anonymous.が イグラッシュ に影響を与えています.かれの非行少年および犯罪前歴者カウンセラーとしての実務経験と、Cressy の「示唆」がメンションされています(このCressy は、Sutherland & Cressy の人で、Wagatsuma & Rosett のRosett との共著 ―Justice by Consentと記憶しています―の人と思われます).ただ、1960年代を含む矯正施設におけるグループ治療のレビュー文献には、イグラッシュの名は出てきていません.


(3)イグラッシュ自身はすくなくとも当初は" restorative justice" の語を積極的には使っていません( Immarigeon 2005)."Creative Restitution"という語が自身の実践を記述するために自覚的に提案されており、かれが賠償の改良(自助グループの支援を受けて、自発的行為("going second mile")を行うこと)としてそれをとらえていたことがわかります.このようにRJの初期においては、社会的支援技法(心理主義的知識実践の一つ)とキリスト教、示談とRJという問題が見え隠れしています.


(4)そこで、"Restorative Justice" の語は、ときに、イグラッシュが使い始めたといわれますが、実際はややニュアンスが違い、かれのいう"Creative Restitution" がかれの実務とあわせてとらえたとき、RJの実践を部分的に先取りしていたというのがより正確かと思われます.しかし、現在のRJと創造的賠償には、とりわけ、その概念の包括性に違いがあります."restorative justice"という表現(gloss)が イグラッシュに帰属されるのは、1970年代後半の理論家が イグラッシュの発想/実践に触発され、かれの仕事を論文集に搭載したことによるのではないかと思われます.


(5)学会時に「物語の重要性」について私の報告へコメンテータからコメントがありました.イグラッシュは1958年の諸論文の中で、さかんにエピソードを使っています.これには、ある種の歴史構築主義的傾向の理論家/実務家から批判もあります(Sylvester、RIchards, Daly など).ところがエスノメソドロジー・会話分析の成果によれば、物語の使用は、議論をその実践にかかわる個人の役割に即して理解させるという重要な機能があると考えられます.したがって「物語の使用」は重要な現象であり、批判者は、暗黙のうちに実証的歴史観を用いて、外在的批判を行っているように見えます.


修復的/回復的正義(restorative justice)の語は、その表現が指示するところの実践を組織化するために使用されるにいたったということが十分に想像されます.たとえば、その語を使用することは、「これであって、あれではない」と述べるという行為を通じて、正義を(ともに)再定義するという、その共同実践の「仲間」になること、およびそのことを伝達しあう手段であった/であると思われます.その語の使用方法は、公式組織における表現使用の分析で用いられた「契約的」使用(Garfinkel & Bittner 1967)という概念を中心にして理解できるでしょう.


写真:H. Schrey, H. Waltz & W. Whitehouse, The Biblical Doctrine of Justice and Law (1955) とその訳書『聖書における法と正義』(西田進・戸村政博訳).(西南学院大学図書館所蔵)

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