2010年10月27日水曜日

J. Heritage, Conversation Analysis and Institutional Talk. (2005)

 本論文は、P. Drew & J. Heritage (eds.) Talk at Work 1992 で、制度的相互行為におけるトークの分析研究の基礎を築いた著者が、2005年に刊行されたLanguage & social interaction というハンドブックに寄稿した論文です.同書には、P.Drew が会話分析について、A. Pomerantz が会話における関係的カテゴリーについてのレビュー論文を寄稿しています.これらの論文はいずれも制度ないし社会構造と会話にかかる研究の現状について、必須というべき情報を含んでいます.明日木曜日のEMCAセミナーの教材です.
 本論文は、制度的トークに関する広い範囲のCA研究をレビューしつつ、その分析的論点について議論を行なったものです.とりわけ、近年の会話分析研究の一つの流れともなっている大規模データセットにおける統計的手法の採用も含めて、議論がなされています.その議論を検討すると、制度的トークの分析と数量化の論点が密接な関係をもつことがわかります.
 ここでは、本論文の「制度」現象の捉え方について、まとめておきます.著者は、制度的トークのCAと基礎的CAについて、後者が「会話という制度」の解明、前者が特別の制度的コンテクストにおけるトーク(ないし制度)の解明という点で、有意義に区別できるとしています.
 エスノグラフィックな手法を用いるEM研究と制度的トークのCAとの関係を考える上でも有益な材料を含んでいます.第1に、本論文では、制度のEMがあきらかにしてきた知見と同様、制度的トークのCAは、制度的目標、課題、方法などの知識を背景として理解されることが詳細なデータによる例示とともに提示されています.第2に(主として言語的な)トークの詳細は、同時に、これらの背景自体(主としてエスノグラフィックなデータに対応するもの)をトークの詳細として具体化するものであることが理解できます.制度的トークの当事者による理解において動員されるのは、トークの詳細のみではなく、その詳細を意味のあるものと見せるさまざまな知識(カテゴリー体系、通常の制度的見かけなど)のインデクシカルな詳細であることは明らかです.これらは、現象学の用語では「関連性体系」と呼ばれるものです. これらの動員行為は,メンバーのエスノグラフィとよぶことができるー人類学的ないし社会学的エスノグラファーのエスノグラフィとは一見非常に異なっていますがーでしょう.(2010.11.12 追加) 第3に、そのような組織化を通じて、観察者は「制度」の事実性に接近できるということです.制度ないし制度的トークは、基礎的会話分析の知見が検証されたり応用されたりする素材ではありません.
 制度的トークのCAが一般的に示していることは、(1) これらの知識が、トークの現場においては、そのトークの詳細と同一ものであるということ、(2) トークの詳細は具体的社会的事実としてのトークの実践行為の特徴的詳細でもあること、(3) CAが解明するのは、「会話という制度」がこの特殊なコンテクストに感応的していかにあらためて組織化されているかということーその一つの意味は、通常会話と制度的トークは単に比較によって差異が見いだされるものではないということーと思われます.Garfinkel の一般的用語では、(1)は制度的トークのindexicality, (2) はそのessentially "uninteresting" reflexivity, (3) はそのaccomplishmentであるといえるでしょう.
 制度的トークは、エスノグラフィカルなEM、現象学的なEM、およびCAが重なりあう領域といえるように思います.

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